2021/11/18

北京大学の秀才が見る日本

 ■北京大学の秀才が見る日本

ーYahoo!個人「今日はこのへんにしといたる」2013/5/4(土) 9:19ー


 尖閣の問題がまだくすぶっているころ、北京大学を訪れました。日本のメディア政策について3連続講義を頼まれまして。相手は博士課程の学生20名。みな北京以外の、いわば田舎から上京した学生だといいます。地方で神童と呼ばれた人たちのようです。超優秀な精鋭。中国の次世代を担われるんでしょう。

 しかし冷え込んだ日中関係のもと、日本に興味はあるのか?ぼくの話を静かに聞いていた連中に、質問しました。

 「日本のコンテンツで知ってるのは?」

 連中が一斉に声を上げ始めました。

 ナルト、ブリーチ、ワンピース、デスノート、コナン、ドラえもん、クレヨンしんちゃん、ギンタマ、ハガレン・・・なんだいなんだい、おスキなのね。

 もう一問。「一番有名な日本人は?」 めいめい名前を挙げた秀才たちが熱く議論を闘わせました。結果は、こうです。

 1位 蒼井そら  2位 ドラえもん  3位 宮崎駿

 

 ただ、そこは北京大の博士学生。政治的な話には敏感でした。「習近平政権の第一課題は?」と振ると、地域格差、経済格差に並び、党幹部の汚職問題を挙げました。新政権になって摘発が相次いでいるが、尻尾切りだ。ポーズに過ぎない。落ち着いたら元の腐敗に戻るだろう。など厳しい指摘。あけすけなんです。

 今度は向こうから質問が吹き出しました。タジタジでしたが、ぼくの即答も合わせてメモしておきます。彼らの日本を見る視点が少しわかるかと思います。

・政府に情報公開させる手法は?

 情報公開法など、制度で政府を規制し、国民に請求権を渡す手法が基本。ただ、最近のオープンデータ運動のように、政府や自治体と民間が連携して行動を促す方法もある。政府、官僚を督励し、成果を出した部門を高く評価する太陽政策だ。日本ではこちらのほうが効果的と考える。

・NTT民営化・再編の経験は他産業にも波及しているのか?

 電電公社や国鉄の民営化は郵政事業はじめ他分野の民営化と競争促進の参考になった。ただし、技術進歩や競争環境によって適用可能性が異なることに注意を要する。原発問題を契機として電力の競争環境整備が課題となっているが、同じアナロジーが適用できるわけではない。

・教育情報化が論理的思考を奪う恐れはないか?

 紙をデジタルに置き換える、ペンをキーボードに置き換える、という考え方であれば、そのような恐れも想定し得る。だが、私たちのアプローチはアナログとデジタルの共存。リプレースではない。アジアでは特に「書く」文化と能力に重きを置くが、これは当面、不変。「書かせる」デバイスや授業も重要。アナログvsデジタルという問題ではなく、授業の内容の問題。

・自動翻訳技術は中国のプレゼンスを高めるか?

 2007年のTechnorati調査では、世界のブログで使われている言語は37%が日本語、36%が英語、そして8%が中国語だった。日本語が世界一だったのは若者のケータイによる情報発信。今回、北京を歩いてとても多くの人がスマホを使っているのを見た。いま計測すれば中国語が相当増えているのではないか。そして中国語で発信された情報が各国語に自動翻訳され流通する。間違いなくプレゼンスを高める。

・大学が新産業育成に果たす役割は?

 スタンフォード、ハーバード、MITのように、数々のIT企業やサービスを大学がプラットフォームになって生み出していったアメリカのような成果を日本は挙げることができていない。従来型の教育と研究だけでなく、社会経済のプラットフォーム、次世代産業の増殖炉として機能することが求められる。ぜひ北京大学のみなさんとも連携して何か生み出しましょう。

・著作権保護の強化は日本人の学習機会を奪っているのでは?

 あなたがたがアニメはじめ色んなコンテンツをフリーで使って学習しているのは知っている。日本はあなたがたより制約がある。だが私から見れば中国の保護は緩すぎる。日本の権利者からみれば問題も多い。コンテンツが国境を越えて流通する量が爆発的に増えるので、国際調整はいよいよ重要。あなたがたのようなリーダーにはしかと考えてもらいたい。

 ひとまず反日暴動は収まり、民衆は平静を取り戻しているものの、王府井の書店では1フロア日本のマンガが占めていた場所が撤去されたままであるなど、経済の関係は落ち込んだままでした。

 中国では新政権が一足先に発足し、日本の安倍新政権の出方を待っている状況でした。習近平政権は2020年までに所得を倍増する計画ですが、エネルギーや環境問題をどう並行してクリアするのか、それまでに一党独裁制がほころびずに済むのか、内なる悩みは深そうです。

 今後も政治的に両国の関係が揺れることはあるでしょう。そんな中でぼくら大学関係者ができることは何でしょう。改めて彼らと論じてみたいと思っています。


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