2020/11/05

著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか?

■著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか?

ーYahoo!個人「今日はこのへんにしといたる」2019/1/12(土) 8:30ー

                                                                     著者撮影


シンポジウム「著作権延長後の世界で、我われは何をすべきか」が青山にて開催されました。

TPP11が6ヶ国目の批准を得て2018年12月30日に発効しました。著作権保護期間が著作者の死後50年から70年に延長されました。

2006年、米国や権利者団体の要求で保護期間の延長論議が本格化して以来、さまざまな議論が重ねられました。国益を損なうとしての反対意見も強く、文科省での議論でも延長は見送られてきました。

しかし今回、TPP11発効に伴い延長となったのです。

だからといって、その事実を非難するよりも、過去の作品の保存と継承や新たな創造・ビジネス・教育・研究開発のために、「延長後の世界」でできることを、建設的に考えようという集まりです。

中山信弘・東京大学名誉教授の基調スピーチに次いで、福井健策弁護士から期間延長問題の経緯が説明されました。

・90年代に欧米が70年に延長し、他国に求めた。日本は2006年に延長論議となった。

・thinkC(著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム)が発足した。

・文化審議会でも議論となり、延長は見送られた。

・2011年、TPP協議で議論再燃となるものの、トランプ政権となり米国がTPPを離脱。

・だが政府は期間延長を内容とする法律を準備した。

・そしてTPP11の成立に伴い、延長が発効した。藤田嗣治、村岡花子などの作品が延長の対象となる。

延長に対する懸念は3点ほど共有されてきました。

1.遺族の収入増はわずかでメリットが少ない。

2.権利処理が困難となり、ビジネスや二次創作が停滞する。

3.コンテンツ輸入国たる日本は民間の負担増となる。

ぼくもこれらの指摘に同意し、延長には慎重な立場を保ってきました。逆に、この懸念を覆すほど延長することを納得させる理屈もデータも12年間目にしませんでした。その中での制度化はどういう決定メカニズムだったのか疑問です。

(アメリカにTPPに帰ってもらいたいために日本は動いたということでしょう。ぼくはTPPには賛成ですが、著作権が人身御供になるのは失策と考えます。それは国内で知財政策の優先度が低いこと、知財戦略が弱いことの現れであり、悔しさを噛み締めます。)

生貝直人東洋大学准教授は、デジタル・アーカイブの取組が期間延長によって甚大なダメージを受けると主張。保護期間の最終20年に入った絶版資料を非営利のアーカイブ機関がネット公開することを認める制度を提案しました。

クリエイティブ・コモンズ・ジャパン渡辺智暁理事長は「使ってOK」と意思表示し、著作物を利用しやすくするクリエイティブ・コモンズの仕組みを推奨。絶版マンガを無料配信している漫画家の赤松健さんは、国会図書館から配信し、出版社・作者にもメリットのある分配システムを提案しました。

「法に失望した」と言う永井幸輔弁護士はブロックチェーンによる著作権管理の可能性を強調。弁護士が法よりテクノロジーでの改善策を説くのは色っぽい。ぼくもそのアプローチに強く期待します。その後も多くのスピーカーがブロックチェーンに言及しました。制度は後退しても時代は前進しています。

三菱UFJリサーチ太下義之さんによれば、90年代に公立文化施設が多数整備されたのは日米構造協議の内需拡大圧力で箱物作れとなったから。今般の延長も、外部からの働きかけによるメタ政策。逆に日本は世界に対し期間短縮を主張してよいと説きます。そうですよ。日本は自らの知財戦略を立てましょう。

慶應義塾大学田中辰雄教授が「著作権厨をなんとかしたい!」と主張。著作権論議は世間で共有されていない。権利にやかましいだけの人が多い。孤児作品の流通を高める上での弊害が「著作権厨」であると。名付けて広めて、恥ずかしめることで、影響力が下がる。うははは。さすがです。

司会の津田大介さん「議論の発端となった12年前からどう変わったのか?」。

写真家の瀬尾太一さんは、著作権が唯一絶対のものではなく、もっと普遍的なものになった。法に限界があり、権利者・利用者が一体となるスキームが重要になった。権利者を呼んでスキーム論議をしよう、と提案しました。

津田さんが「お通夜みたいなシンポになるかと思ったが」とおっしゃったとおり、みなさん前を向き、明るく建設的。ぼくもthinkCの発起から携わりましたが、この12年の運動はムダではなく、みんなが学び、賢くなり、前進したと考えます。これを後世にどう生かしていくか。

12年前ぼくは司会で、孫ひ孫に資産を残したいと主張する松本零士先生に「そば屋も資産を残したがっているがそば屋法はない。なぜクリエイターだけ法律が要るのか」と素で聞いたところ「そば屋と一緒にするな!」と先生大激怒。おいしいリアクションをいただいた思い出があります。

これでthinkCの活動は一区切り。ですが瀬尾さんご提案のとおり、次の場はスグに必要です。本件に限らず(あまり言いたかぁないが海賊版含め)著作権を巡る問題はますます多層的に発生してきます。改めてアクションを起こしましょう。

 

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